暮
に 故
城
に 上
る
西
島
長
孫
(蘭
渓)
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獨
り故
城
の路
を上
れば
人
耕
して残
壘
平
かなり
晩
風
吹
いて斷
えず
歸
犢
雲
に向
つて鳴
く |
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語 釈 |
○故城==古い城。
○残壘==廃墟となって取り残された砦。遺塁。
○晩風==夕風。
○吹不斷==斷は絶と同じ。しきりに吹く。たえまなく吹く。
○歸犢==家路に向かう小牛。
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通 釈 |
ただ一人古城へ通ずる路を登って行くと、その昔恐らく険しかったであろう遺塁は、今は人に耕されて平らかな畠になっている。
さすがに夕風がしきりに吹き渡り、今しも作業を終えたらしく、人に追われて帰り行く小牛が、一声長く雲に向かって鳴いた。
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題 意 |
古城址にのぼり、その晩景を写した。孜々斎詩藁にあるが、古城址がどこであるかは詳らかにし得ない。文化五年
(二十八歳) 三月二十八日の作であることは自注によって知られる。或いは題詠かも知れない。
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余 説 |
古城址を訪れる者は、その懐古の情と共に、時の流れに一切の変貌してゆく姿を見て、一種の寂寥感に襲われるであろう。
詩は淡々と写し去っているが、特に結句に到って、 「無心の小牛が何を考えているのか雲に向かって鳴く」 と述べて、限りない余韻を漂わせ、転句には城址への高さまで描き出されている。巧妙である。
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