自分が故郷を去って母とはなれて住み、この中秋の名月をともに賞せぬことは既に十三年にもなる。 然し今宵は母を迎えて秋風に坐し、月見の酒をさしあげることの出来たのはまことに嬉しい。 あいにく曇り空で月は見えないが、そのためにわが白髪を母に見られないのは幸いである。