(通 釈)
五嶺に連なる山々は、蒼く聳え、その上を白い雲がゆったりと行き来している。
その中にあって、大?嶺 (タイユレイ) の万株の梅の木々が花をつけていることに心ひかれる。
誰が言ったのであろうか、春 (の景色) は東方からやって来るなどと。これらの梅の花は露も暖かな南の枝から咲きはじめているのに。
○五嶺==四方の山々。湖南・江西と広東・広西の間を東西に走る南嶺山地の五つの山の総称。
○蒼蒼==青々としていることをいう。
○大? (タイユ) ==大? (タイユ)
嶺をいう。
○但憐==心引かれる。 ○春色==春の景色。
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(解 説)
村上天皇の天暦年間内裏坤元録屏風詩の一つ。
まだ余寒が残る初春に梅の花を見つけ、その花が南側の枝についていることから、 「春は東方 (東は春の意) から」 という常識に対して、ユーモアをもって詠った詩である。
(鑑 賞)
菅原道真が大宰府に流謫されて、
「東風吹かば にほいおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」
と詠っているように、春は東風によって運ばれてくるというのが普通の詠い方であるが、ここは、白居易の
「大?嶺 (タイユレイ) 上の梅、南枝落ちて北枝開く」 (白氏六帖)
を踏まえて、南の枝から梅の花が咲いたと詠っているのである。
大?嶺 (タイユレイ) は峠を越して南へ南下するとすぐ亜熱帯になる。この地の梅は、先ず峠の南側に花をつけ、その後、峠の北側へと移っていくのである。 |