はるはなたず
菅 三品
899 〜 981


れい そう そう としてくも おう らい

ただ あわ れむたい まん しゅうめ

たれしゅん しょく ひがし よりいた ると

つゆ あたた かにしてなん はな はじ めてひら
五嶺蒼蒼雲往來

但憐大?萬株梅

誰言春色從東到

露暖南枝花始開

(通 釈)
五嶺に連なる山々は、蒼く聳え、その上を白い雲がゆったりと行き来している。
その中にあって、大?嶺 (タイユレイ) の万株の梅の木々が花をつけていることに心ひかれる。
誰が言ったのであろうか、春 (の景色) は東方からやって来るなどと。これらの梅の花は露も暖かな南の枝から咲きはじめているのに。

○五嶺==四方の山々。湖南・江西と広東・広西の間を東西に走る南嶺山地の五つの山の総称。
○蒼蒼==青々としていることをいう。
○大? (タイユ) ==大? (タイユ) 嶺をいう。
○但憐==心引かれる。  ○春色==春の景色。  


(解 説)
村上天皇の天暦年間内裏坤元録屏風詩の一つ。
まだ余寒が残る初春に梅の花を見つけ、その花が南側の枝についていることから、 「春は東方 (東は春の意) から」 という常識に対して、ユーモアをもって詠った詩である。
(鑑 賞)
菅原道真が大宰府に流謫されて、
「東風吹かば にほいおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」
と詠っているように、春は東風によって運ばれてくるというのが普通の詠い方であるが、ここは、白居易の
「大?嶺 (タイユレイ) 上の梅、南枝落ちて北枝開く」 (白氏六帖)
を踏まえて、南の枝から梅の花が咲いたと詠っているのである。
大?嶺 (タイユレイ) は峠を越して南へ南下するとすぐ亜熱帯になる。この地の梅は、先ず峠の南側に花をつけ、その後、峠の北側へと移っていくのである。