【作 者】北
原
白
秋
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【歌 意】 |
ああ鳴くな、鳴いてくれるな、春の鳥よ。青く繁った草原に真っ赤な夕日が沈んでゆくこの光景に、私の胸は今にも張り裂けそうなのだから。 |
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【語 釈】 |
○な鳴きそ鳴きそ==「な〜そ」 は禁止の意。鳴くな、鳴いてくれるな。
○外の面==家の外側、戸外。
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【鑑 賞】 |
「桐の花」 所収。「銀笛哀慕調」 と題された歌群の冒頭の一首で、感傷的な春の夕映えを描写した若き白秋の代表作である。
青々と繁る春の草原と赤々と沈みゆく夕日の色彩の対比がきわめて鮮やかで美しい。
白秋は言う、 「鳴かぬ小鳥のさびしさ・・・・・それは私の歌を作るときの唯一無二の気分である。私には鳴いている小鳥のしらべよりも、その小鳥をそそのかして鳴かしめるまでにいたる周囲のなんとなき空気の捉へがたい色やにほいがなつかしいのだ」
(「桐の花とカステラ) と。
夜の気配を背後に感じつつ、美しく穏やかな春の夕映えを目前にして、研ぎ澄まされた詠者の心には様々な感情が渦巻いて溢れんばかりである。しかも、その傍らには今にも鳴きだしそうな鳥がいるという、まさに一触即発の緊迫した状況である。
「な鳴きそ鳴きそ」 と祈るように語りかける詠者の後姿は痛々しいほどに切ない。
上の句ではア行音 ( 「は
る」 「な
鳴
きそ鳴
きそ」 「あ
か
あ
か
」 ) 、下の句ではオ行音 ( 「外
の面
」 ) の音韻が印象的であり、さらに上下句を 「と」 でなめらかに繋げている点も偶然ではあるまい。
上の句の小刻みでリズミカルな調子と下の句のゆったりとした心地よい響きは、 「言葉の音楽」 や 「音の関連の自然さ」
(以上、改造社 『短歌講座』 ) を重んじた白秋ならではの妙技と言えよう。
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【補 説】 |
ほぼ同時期の作品としては
鳴きそ鳴きそ 春の鳥
昇菊の紺と銀の肩ぎぬに
鳴きそ鳴きそ 春の鳥
歌沢の夏のあはれとなりぬべき
大川の金と青とのたそがれに
鳴きそ鳴きそ 春の鳥
( 『雪と花火』 春の鳥) |
や
泣きそ泣きそ あかき外の面の軒したの 廻り燈籠に灯が点きにけり
( 『桐の花』 U哀傷篇二) |
などがある。 |
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【作者略歴】 |
明治十八年 (1885) 生まれ、昭和十七年 (1942) 没。享年五十七歳。
福岡県柳川出身。早稲田大学文科中退。在学中若山牧水と出会う。
はやくから雑誌 「明星」 や 「スバル」 へ自作を発表。
明治四十二年、処女詩集 『邪宗門』 、同四十四年 『思ひ出』 、大正二年には歌集 『桐の花』 を上梓し、詩壇における地位を確立した。
作風は感覚的耽美的であるが、のちに東洋的枯淡美への傾斜を強めていった。
晩年には糖尿病の悪化により失明。
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(学習院大学大学院 田中 仁) |