しゅく
河野 天籟
1868 〜 1948


かい なみ たいら かにして瑞煙ずいえん みなぎ
ふう じゅう 桑田そうでんうるお
ふく東海とうかいごとはる かにかぎり
寿じゅ南山なんざんとこしな えに けず
つる宿やどろう しょう 千載せんざいいろ
かめひそ江漢こうかん 万尋ばんじゅふち
ようゆき 大瀛たいえいみず
しん しゅう磅?ほうはく してきゅう てんかがや
四海波平漲瑞煙

五風十雨潤桑田

福如東海杳無際

壽以南山長不騫

鶴宿老松千載色

龜潛江漢萬尋淵

芙蓉之雪大瀛水

磅?~洲輝九天

(通 釈)
四方の海は波はおだやかで、大平のきざしを見せ、天空には、めでたい瑞雲がみなぎっている。天候も順調で、五日に一度の風と、十日に一度の雨という気候が、ほどよく桑田をうるおしている。福は、東海のように際限なく広がり、壽は、かの南山が尽きないように永遠に欠ける事が無い。
鶴は常緑の千寿の松の上に宿り、亀は揚子江や漢江のような深い淵の中に潜んでいる。
霊峰富士は千古の雪に輝き、海水は洋々として万古に尽きることなく、このように、すばらしい瑞気がわが日本の内外に満ちあふれ、大空にまで輝きわたっている。

○四海==周囲の海 
○瑞煙==瑞祥ある煙。めでたいことの現れる兆しを指し示す。
○五風十雨==五日一風十日雨の略。五日に一度風吹き、十日に一度雨降るという、順調な気候をいう。天候の中でも最善のものといわれる。
○桑田==一般には桑田碧海、桑畠が変じて青海原となる、つまり時世の変遷のはなはだしいことをあすのに用いられるが、ここでは、わが国が扶桑国といわれるのを考慮し、めでたいこと限りない国土の意に使っている。
○東海==東の海、東へ際限なく続く海。
○南山==終南山。南山之壽というように長寿を祝する語。
○江漢==中国南部を流れる二大河、揚子江と漢江。
○尋==水の深さを測る単位、ひとひろ。  ○芙蓉==はすの花
○大瀛==人海。
○神州==中国人が自国の称にもちていたところから、わが国でも自称したもの。
磅?ほうはく ==満ちあふれて。広大なるさま。
○九天==天の最も高いところ。大空、九重天の意。


(解 説)
お祝いを賀す詩として作られたもの。河野天籟の代表的作品。
第一句の <瑞煙> 第二句の <五風十雨> 第三句の <福> 第四句の <壽> 、第五句、そして第六句の <鶴>・<亀> など、めでたい語句を中心に詩を公構成し、ここちよいひびきのなかで、心からの祝意を表現している。

(鑑 賞)
慶祝の詞は長寿、健壽にちなむもの、子孫の繁栄にちなむもの、商売繁盛にちなむものなど色々ある。いずれも、単に慶祝の詞だけだと、詩としては内容が空疎になりがちなのは、否めないが本詩は、風土の美しさ、国の尊さ、あらゆる人々の繁栄を祝う意図から作られており、また、詩意表現にも工夫があるので、まとまった詩となっている。そのため、公私の区別無く、多くの席で吟じられる。